新しい大気圧非平衡プラズマ法により大気圧下での薄膜形成を行い、そのメカニズムをプラズマ計測法により解明する。
近年、高密度に活性種を生成できる非平衡大気圧プラズマが注目されており、機能性薄膜形成など表面処理プロセスへの応用が期待されています。また、アモル ファスカーボン膜に分類されるダイヤモンド状炭素(DLC)膜は、高硬度による耐摩耗性、低い摩擦係数など多くの優れた物性を有することから様々な分野に おいて用いられています。また、やわらかい保護膜や生体親和性に富む炭化水素ポリマーなど、アモルファスカーボンには数多くの膜質の要求があります。アモ ルファスカーボン成膜には一般的に、低圧下での化学気相成長法が利用されていますが、最近は、プラスチックなど有機フィルムへの保護膜としてのDLC膜の 応用など、大気圧、低温下でのプロセスが期待されています。もちろん、このようなプロセスでは、低コストで低温かつ高速成膜することが要求されています。
アモルファスカーボン膜を生成させる「源」となるプラズマ気相を診断し、かつ膜性質を評価することで、アモルファスカーボンの成膜メカニズムを解明し、求められる性質を持った膜の作成につながる研究を行っていきます。
下は本研究で用いているプラズマ装置図です。
図1 : プラズマ装置図
本研究では、超高密度非平衡大気圧リモートプラズマを用い、エタノールを原料とするアモルファスカーボン膜の成膜を行いました。 本研究室で開発した、超高電子密度(1016 cm-3)を持つ非平衡大気圧リモートプラズマ源を 用いてアモルファスカーボン膜の作製を行いました。電極間に60 Hz交流電圧を印加し、その間にアルゴンガスを導入することでアルゴンプラズマを生成し、このプラズマ源のリモートプラズマ部にアルゴンガスとともに気化 させたエタノールを導入し、石英基板上にアモルファスカーボン膜を堆積させました。
図2に、プラズマユニットから基板までの距離を5 mm、処理時間を10分で成膜されたアモルファスカーボン膜のラマンスペクトル測定結果を示します。
ラマン分光法とは化学物の同定、組成評価、結晶性、配向性を同定する際に使われ、カーボン材料では、平均結晶粒径や炭素のsp2/sp3と相関があるといわれており、アモルファスカーボンの膜質を非破壊方式で膜を評価することが出来ます。このスペクトルより、グラファイト構造に起因する1600 cm-1付近のGバンドと、アモルファスカーボンに起因する1350 cm-1付近のDバンドが観測され、全体にブロードなバンド形状をもつことが分かりました。
図2 : ラマン分光の結果
現在では、さらにプラズマ源の改良を行い、100nm/minにも及ぶ高速堆積レートでの成膜が達成されるようになっております。