プラズマ培養液による選択的アポトーシス誘導プロセスに関する研究

プラズマのバイオマテリアルに対する作用プロセスの解析

背景

がんは、昭和56年以降現在に至るまで日本人の死因第1位を占めており、その治療法の確立は急務となっている。現在実用化しているがんの主な治療法として、抗がん剤・放射線・手術がある。しかし、抗がん剤は嘔吐等の強い副作用があり、放射線は照射部位への再照射が不可能、手術は転移した場合に有効でないなどそれぞれデメリットがあり、完全な治療法が無いためこれらの治療法が相補的に使用せざるを得ないというのが現状である。

そこで我々は新たにプラズマによるがん治療を提案する。現在、プラズマを医療応用する研究が世界的に進んでおり、がん治療への応用を目指した研究も盛んに行われている。本研究室でも、プラズマを照射した培養液により卵巣がん細胞やグリオーマ(脳腫瘍細胞)に対する選択的死滅効果が示されている。また、マウスを用いた実験では抗がん剤耐性を持つがん細胞株に対しても抗腫瘍効果が認められたという報告もあり、治療法が確立されれば従来の3つの治療法とは違った面からがんにアプローチできる第4の治療法となるポテンシャルを十分に秘めていると考えている。

しかしながら、イオン、ラジカルなど複数の活性粒子を含むプラズマによって、培養液がどのように変性しているかについては未知の部分が多い。今後プラズマ医療を実用化するにあたってその作用メカニズムの解明は必須であり、プラズマによってもたらされる抗腫瘍効果の作用機序解明を最終的な目標とし研究を行っている。

図1(a)

図1(b)

アプローチ

我々の研究室ではプラズマを照射した細胞培養液をPlasma Activated Medium(PAM)と名付けて研究を行っている。PAMは主に以下の2つのユニークな特徴を持つ。

1つ目は細胞のアポトーシス誘導である。アポトーシスとは細胞の死に方の1つで図1に示すようにべったりと広がっていた細胞が風船のように丸く凝縮したような形で死ぬというのが特徴である。この死に方は細胞の中身が外に飛び出さないため周囲の細胞に悪影響を与えにくいという特徴がある。

2つ目は選択毒性である。適当な条件でPAMを作製し細胞培養を行うと、図2に示されるようにがんに対して殺傷効果を示しながら正常な細胞はほとんど殺さないという効果が得られている。

このようにさまざまな有用な効果が確認されているPAMであるが実際にどのようなメカニズムでそれらが引き起こされているかは未解明な部分が多い。そこで我々は電子スピン共鳴(ESR)を用いたプラズマ照射により生成する液中活性種の計測と、実際に細胞を培養し培養後の細胞生存数を計測することによりPAMの抗腫瘍効果の評価を行っている。

図2

成果

図3にPAMから得られたESRシグナルを示す。

活性種としてOHラジカルとHラジカルの生成が確認された。

図4にがん細胞培養後の生存数について、PAMとH2O2添加培養液の比較結果を示す。H2O2はPAM内でも生成が確認されている物質であり、抗腫瘍効果があるということが示されている。図4ではPAMによる生存率をその含有するH2O2濃度の点にプロットしてある。

図4よりPAMの抗腫瘍効果はH2O2だけの効果では無く、他のプラズマ特有の活性種生成が考えられる。

図3

図4

実験装置図

図5. 電子スピン共鳴(ESR)装置

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