次世代ナイトライド系パワーデバイスの実現

次世代GaN系パワーデバイス実現に向けたラジカル励起有機金属化学気相成長法に関する研究

目的

背景

近年、温室効果ガスの排出量増加といった環境問題や、化石燃料の枯渇といったエネルギー問題の解決が求められており、その方策として温室効果ガスを排出せず化石燃料を利用しない電気自動車や、太陽光発電・風力発電といった再生可能エネルギーに注目が集まっています。現在の電気自動車はガソリンを利用している車と比較して航続距離が著しく短く、このことが電気自動車の普及を妨げる要因となっています。この課題を解決する為には二次電池の性能向上や走行時に車体が受ける力学的な抵抗低減のほか、直流電源である二次電池を用いて三相交流のモーターを駆動する際の電力変換効率の向上が必要不可欠となります。また、太陽光発電や風力発電といった自然のエネルギーを利用する発電方法では天候によって出力が安定しないため、安定したエネルギーとして利用するためには発電機器自体の発電効率の向上のほか、電力変換効率の向上や送電時の損失の低減が求められています。以上に示したように、電気自動車や再生可能エネルギーの更なる発展のためにはいずれも、いかに効率的に電力を生成・貯蔵・輸送・消費するか、つまりパワーエレクトロニクスが極めて重要となります。

パワーエレクトロニクスの分野で重要な役割を担っているのは半導体パワーデバイスです。電力変換時の損失低減に向けた半導体パワーデバイスを用いた技術開発によって前述の問題を解決することが今後の人類の持続的発展にとって極めて重要となります。

高効率インバータを構成する低損失スイッチング素子には、SiやGaAsが用いられており、更なる高性能化が求められています。しかし、増大する電力の制御に対して、これらの半導体材料としての物性値が十分ではないために、本質的にその適用が困難と認識されるようになってきています。このため、ワイドギャップ半導体であるGaN等のⅢ族窒化物半導体が今後のパワーエレクトロニクス応用において期待されています。

その理由は,Ⅲ族窒化物半導体は半導体材料として現在広く利用されているSiやGaAsとは結晶構造が異なっているほか、結晶の格子定数が小さくバンドギャップが大きいという特徴をもつワイドギャップ半導体であるということであります。格子定数が小さいという特徴は、必然的に原子間の結合が強いということにつながります。窒化物半導体の半導体材料としての特性は、この大きな原子間結合エネルギーの結果バンドギャップや熱伝導度、飽和ドリフト速度、絶縁破壊電圧といった物性値が大きな値を示すことになり、パワーデバイスとして低損失スイッチング素子応用にとって有望な半導体材料となっています。

以上に示したように窒化物半導体の半導体材料の物性値は高い値を持っている一方で、普及は拡大していません。この理由として現在多くの場合利用されている基板であるサファイア基板が高価であり、製造コストが多くかかることが挙げられます。

このような課題に対応するために、我々の研究グループでは安価なSi基板上に高品質なⅢ族窒化物の成長に関する研究を行っております。

アプローチ

我々の研究室ではラジカル励起MOCVD装置によってSi基板上にGaNを成長しています。

従来のMOCVD法では1000℃以上の高温が必要であるため、Si基板上にGaNを成長するとSi基板とGaNとの熱膨張係数の差によって反りやクラックが生じてしまいます。また、GaNから窒素が抜けてしまうのを防ぐために多量のアンモニアが必要であるため製造コストが高くなってしまいます。
ラジカル励起MOCVD法ではプラズマによって窒素ガスと水素ガスを分解し、生じたラジカルを反応に用いることで比較的低温下での成長を実現しております。また、窒素源としてアンモニアではなく窒素ガスを用いることで従来のMOCVD法よりも製造コストを抑えることができます。

ラジカル励起MOCVD法を用いてSi基板上にGaNをはじめとしたⅢ族窒化物を成長させる研究を行っております。

成果

下図にX線光電子分光法による光電子スペクトルを示します。本実験ではSi(111)上にAlN核生成層を成長しその上にGaN薄膜を成長したもの、サファイア基板上にAlN核生成層を成長後その上にGaNを成長したもの、HVPE法によって作成されたGaNテンプレート、以上の三種類の資料を解析しました。

図.1にGa3d、図.2にN1sそして図.3にはO1sの光電子スペクトルをそれぞれ示します。

図.1、図.2の光電子スペクトルからラジカル励起MOCVD法によってSi(111)基板上にGaN薄膜を成長させることができたということが確認できました。

図1 Ga3dの光電子スペクトル

図2 N1sの光電子スペクトル

図3 O1sの光電子スペクトル

実験装置図

図4.実験装置図

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